特別講座 情報通信と保健医療 講義概要
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10月2日(土)

3限(13:00〜14:30)

情報通信技術を用いた医療・福祉の支援技術のこれから

東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科 准教授 山下 和彦

日本は超高齢社会に突入しており,2055年には高齢化率40%以上となります.その後の21世紀中は高齢化率30%前後を推移すると予測されることから, そのような状況を踏まえた医療・福祉・健康分野の技術開発と支援を構築する必要があります.医療・福祉(介護)・健康は切り離して行うものではなく, すべてつながって行うことが有効で快適なあり方です.しかし,少ない専門家が多くの対象者をすべて網羅できるわけがなく,そこには情報通信技術が大きな役割を担うことになります. 病院内の医療過誤予防にも同様のことが考えられ,数多くの医療行為のすべてを人間がミスなく監視するのではなく,通信技術が支援することで患者・医療従事者双方にメリットがあります. 本講義ではこれら背景を踏まえ,新しい情報通信技術を用いた医療支援,健康・福祉のあり方について講義いたします.

  キーワードは「目的意識」.医療者が目指す医療の目的は?患者が求める医療の目的は?そして,あなたが医療者になる目的は? 

医療を崩壊させない.そのためにも,これから医療者として成長していくみなさんには,常に心に留めておき,素敵な医療者として羽ばたいてくれることを願います.


3限(13:00〜14:30)

政府の進めるIT政策と「かがわ遠隔医療ネットワーク」,そして日本版EHRへ

香川大学瀬戸内圏研究センター 特任教授 原 量宏

政府はこの10年「e-Japan戦略」,「IT新改革戦略」,「i-Japan戦略2015」を掲げ、医療分野におけるITの導入,そして遠隔医療を積極的に推進してた. 昨年政権交代が行われ,これまで積極的に進められてきた医療のIT化の歩みが遅れるのではないかと懸念されていたが,昨年12月に「新成長戦略」が, そしてこの5月には,IT戦略本部から「新たな情報通信技術戦略(工程表)」が発表された.その内容をみると,地域の絆の再生として「どこでもMY病院」構想, そして「シームレスな地域連携医療の実現」が明記されており,これまで以上に医療分野におけるITの利活用が推進されることが期待されている. これらの政策にあわせる形で,厚生労働省による「地域医療再生計画」,経済産業省による「健康情報活用基盤構築のための標準化及び実証事業(PHR)」, そして総務省による「地域ICT利活用モデル事業」等において,全国規模で医療ITプロジェクト,遠隔医療が推進されている.

  香川県においては,「e-Japan 戦略」,「IT 新改革戦略」が発表される前から,医療へのIT導入に取り組んできた.98年度には県のモデル事業として 周産期電子カルテネットワークに取り組み,99年度には文部科学省,通信放送機構(JGN)の研究開発費,ならびに香川県の協力により, 画像系を中心とした遠隔診断のネットワーク構築に取り組んだ.01年度には,経済産業省の実証事業による「四国4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」に取り組み, 全国規模での電子カルテネットワークを実現する上での技術的問題を解決することができた.03年度にはその成果をさらに発展させ,香川県と香川県医師会, 香川大学医学部が一体となって運用する遠隔画像診断の支援を主体とした「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」が稼働した. 本ネットワークは香川県の一般財源で実現したもので,全県的な取り組みとしては全国でもはじめてのものである.その後07年には,厚生労働省の支援事業による デジタルマンモグラフィの遠隔診断システムが稼働し,08年中には,K-MIXへの脳卒中地域連携クリティカルパが実装された.そして10年には文部科学省の研究開発費により, 糖尿病地・ 連携クリティカルパス,ならびに病院と院外の調剤薬局を電子的に結ぶ電子処方箋のネットワークが稼働する予定である.今後は,これらのネットワーク基盤を利用して, 生まれる前の胎児の時期から新生児,学童期,成人,そして高齢者までの,個人の一生を通じての医療・健康情報の提供,すなわち生涯健康カルテの実現を目指している.

  本講演では,政府の進めるIT政策により,急激に変貌する遠隔医療のあり方に関して,香川県で取り組んできた「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」を中心に解説する.


4限(14:40〜16:10)

食べることは生きること

水産庁水産経営課 課長補佐 長野麻子

人は食べなければ生きていけない.しかし,飽食の時代,お金で世界中の食料を買える時代,自分で食料を作らなくても食べられる時代になり, 「食」への興味・関心が薄れてきている.医食同源という言葉にあるとおり,食生活と健康は切り離せない.これからの私たちは何を食べ, どう生きていくのか.世界の食料事情,日本の食料・農林漁業・地域の現状と課題,食料・農業・地域政策をめぐる状況等を紹介しながら, なぜ「食べること」を考える必要があるのか,誰しも無関係でない「食」にもう少しだけ頓着するライフスタイルをどう実現していくのかなどについて, ともに考えてみたい.


10月16日(土)

2限(10:40〜12:10)

保健・医療・福祉における情報流通基盤 EHR・PHRの現状

エヌ・ティ・ティ アイティ株式会社 ヘルスケア事業 部長 坪井 俊明

保健・医療・福祉の情報が電子的に蓄積されるようになってきたため,その情報を流通させて活用され始めている.しかし,これらの情報は最も守られるべき 個人情報であるため,情報流通させるにはセキュリティなどが重要である.

最近,日本版EHR(Electric Health Record)などの試みが行なわれており,その目的や利用されている技術などについて紹介する.

また,さらにEHRに加えて健康情報を活用するというPHR(Personal Health Record)の取り組みも行われており,いくつか実例を紹介する.


3限(13:00〜14:30)

通信技術を利用した新しい医療統計とその利用

東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科 教授 比江島欣愼

近年のITの発展および普及は,社会活動において多大な利便性を人々に提供する一方で,情報の氾濫という問題をもたらしています. その影響は医療保健の分野においても見られます.当該分野では人命に関わる情報を取り扱うため,情報の正確性が高度に要求され, 統計学・疫学を用いた科学的な情報(エビデンス)の生成・利用が必須とされています.この講義では,科学的なエビデンスとは何かを考察し, その生成方法の基本概念を紹介します.また,医薬品や治療法の開発を例にとりながら,その実践と情報通信技術との関わりについて, 現状および今後の展望を私見を交えて議論していきます.


4限(14:40〜16:10)

水産食品の安全性に関わる最近の知見—フグの毒化機構解明から無毒フグの生産へ,フグ中毒をもたらしたフグ肝から安心,安全かつ機能性のある美味なフグ肝の復活—

東京医療保健大学大学院 医療保健学部 医療栄養学科 教授 野口玉雄,助教 大貫和恵

フグの毒化機構を解明すべく,長年に渡り研究を重ねてきた結果,食物連鎖という1つの説にたどりついた.それを証明するため,フグ毒(テトロドトキシン)が存在しない環境でトラフグを養殖した結果, 8762匹の無毒を確認してきた.これらの結果から,フグ毒保有生物が存在しない環境で養殖すれば無毒フグが生産できることが分かり,天然フグのフグ毒による毒化機構は,食物連鎖であることが明らかとなった.

次のステップとして,この無毒のフグ肝を食品として利用するため,栄養学的側面からフグ肝を分析した.その結果,フグ肝には機能性成分(IPA,DHA)が多く含まれ,嗜好的な部分においてもフグ肝の生, 料理,加工品のいずれにおいても評価が高かった.

従って,フグ肝は,機能性,嗜好性が優れた食品であることが明らかとなり,近い将来,伝統食品フグ肝を安心,安全な形で復活させる道筋が整いつつある.


10月23日(土)

2限(13:00〜14:30)

メカノメディスン—メカノバイオロジーで切り拓く医学・医療—

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 システム生理学 教授 成瀬 恵治

我々の体は外界からのみではなく内部からも様々なメカニカルストレスを受容し適切に反応している.しかしながらその適応がうまくできないと様々な病態へと進展することが知られるようになった. 本講座では様々な病態をメカノバイオロジーという切り口で研究し,治療法への糸口を見出す「メカノメディスン」という新たな分野に関した講演を行う.


4限(14:40〜16:10)

患者から求められる医療者像とは

日本二分脊椎症協会 前会長 鈴木 信行

先天性疾患の二分脊椎,及び20歳代で発症した精巣腫瘍.この2つの闘病経験や,多くの患者と関わってきた患者会運営の経験などを通し, 私が考える理想の医療者像について語ります.教科書には載っていないリアルな医療を取り巻く世界,医療者と患者の意識の差, 患者が納得していない医療・・・それらの原因はどこにあり,その対処法はあるのでしょうか?

  キーワードは「目的意識」.医療者が目指す医療の目的は?患者が求める医療の目的は?そして,あなたが医療者になる目的は? 

医療を崩壊させない.そのためにも,これから医療者として成長していくみなさんには,常に心に留めておき,素敵な医療者として羽ばたいてくれることを願います.


12月4日(土)

2限(10:40〜12:10)

医療安全から患者安全へ

東京医療保健大学 国際交流アドバイザー 早野 真佐子

医療界では,最近,「安全」が最重要課題の一つとなっている.さまざまな組織や病院で,さまざまな安全への取り組みがなされ,シンポジウムや研究会がさかんに開催されている. しかし,医療事故に遭遇した患者や患者の家族と医療者との間の溝はなかなか埋まらない.そこにはどのような問題があるのだろうか.埋めるためには何が必要なのだろうか. それを埋めている組織と患者の間には何が存在しているのだろうか.医療における患者の安全は,医療安全なのだろうか,患者安全なのだろうか.日本と海外の取り組みを紹介しながら, これらの疑問についてともに考察してみる機会としたい.


3限(13:00〜14:30)

ネットワーク時代の医療機器ニーズ

テルモ株式会社 研究開発本部 商品開発グループ 澤井 健二

昨今のIT技術の進歩には目を見張るものがあり,IT化が遅れているといわれてきた医療機関でも急速にIT化が進んでおります. 予防・治療・療養という医療の連続性の中で,個々の医療機器機能向上に,医療機関の医療供給体制向上に,医療機関同士の連携に, そして自宅での健康管理・療養に,と様々な領域のニーズ沿ってIT化が同時並行で進んでおります.

今回は,国としての地域医療連携が積極的に推進されている中,特に,医療スタッフ不在という,自宅での健康管理・療養医療に求められる安心を提供するために, という視点から,「医療機器」を対象にした「ネットワーク」をキーワードとして話題提供できれば幸いです.


4限(14:30〜16:10)

持続可能なチームアプローチ〜保健・医療・地域のお互いの役割を知ることでホンネの対話〜

大阪府堺市市役所 言語聴覚士 花家 薫

今日あらゆる領域で"持続可能性sustainability"の概念が共通の枠組みになりつつあります.「チームアプローチ」の一員として, 多様なフィールドでの活躍が期待される皆さんにも意識してもらいたい枠組みです.人々の多様なQOLの向上に貢献するためには普段の授業で身につける高い専門性と, 保健・医療に関する幅広い知識を内部に備えた成長の両方があるべきと考えられます.そして情報や関係性を適切に取り出して, チームの協働が効果的になるためにはお互いを知ることから始まる共通理解が必要です.

現場で求められる高い協調性と豊かな感性をホンネで対話しませんか?言語聴覚士から見た保健,医療,地域の現場について皆さんにお伝えします.

12月18日(土)

2限(10:40〜12:10)

「旅行と医療」—その未来を探る—

厚生労働省 関西空港検疫所 古閑 比斗志

最近メディカルツーリズムが脚光を浴びている.メディカルツーリズムには「ようこそジャパン」キャンペーンのように患者を日本へよぶインバウンドと海外で臓器移植をするように患者が海外へ行くアウトバウンドが存在する. 歴史的には不老不死を求めた秦の始皇帝の徐福伝説が有名である.日本では醤油味噌日本酒等醸造技術が発展している.これらをベースに今後IPS細胞等の細胞培養技術が日本において発展し, また人のDNAが解析された現在,今後は人間の体内に於けるタンパク質・ペプチドが生産されるであろう.これらの技術は世界中の不老不死を望む人々に利用されるのである. 新産業の創造と旅行と医療の未来を探ってみよう.


4限(14:40〜16:10)

医療&日本崩壊の深層と再生への処方箋

済生会 栗橋病院 副院長 本田 宏

1.日本の医療費は先進国中最低
日本の医療費は先進国中最低,逆に窓口自己負担は世界最高,薬剤や医療機器も世界一高い理不尽な構図.

2.医師の絶対数不足、大幅増員を
日本の人口当たり医師数はWHO加盟国で63位,OECD加盟国ではビリから4番目.

3.財源は財政の無駄を見直し「コンクリから人へ」を実行せよ
国内経済活性のためにも,永続的雇用効果をもつ医療や介護・福祉を社会的インフラ(公共事業)として最優先すべき.

4.黙っていては何も変わらない,変えられない.
世界最大の悲劇、善意の人の沈黙と無関心」は米国の公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師の言葉だ.世界は日本が未曾有の超高齢化社会をどう乗り切るのか,固唾をのんで見守っている.


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