今回私たちが参加したシアトル研修ではアメリカの医療に関して多くのこと学び、とても充実した2週間を過ごすことができました。日本の医療では見られないアメリカの様々な特性を実際に目で見て知ることができ、勉強になることが非常に多かったです。 研修の中で3・4日目に訪問した民間の非営利組織であるSt.Joseph Medical Center での研修内容について報告致します。 St.Joseph Medical Centerでは、医療情報に関する講義を受け、病院内の様々な部門を見学しました。
院内見学では医療情報管理部門でコーディングの流れを勉強し、救急部門・心臓カテーテル検査室・心臓リハビリコーナー・自動分析室・輸血管理部などを見学しました。
アメリカにおける医療の質管理は、法律で定められた患者満足度調査や、国で決められた指標で医療の質を判断する基準が設けられています。 質の改善のためには患者が何を求めているのか、受けている医療に対してどう感じているのかを明らかにする必要があり、 それらを踏まえた上で問題点を挙げていくことがこれからの医療に繋がっていくということに目を向けられていました。
患者の診療録などから分析をするにあたって、情報を収集することは非常に重要なことです。その情報は確かなものであり、質の良いデータ(data qualityの確保)でなくてはいけません。 情報を収集するのにも基準が定められ、基になるフォーマットができていればその後の分析がとてもスムーズに行えると言えます。したがって自由記述のような部分にもフォーマットがあり、 それに基づいて記述することで誰でも同じ考え方で記述されることになります。アメリカの医療ではこれらの医療情報を支える体制が確立されていて、 分析からレポートを取り出すまで非常に簡単な操作で行うことが可能です。そして、情報管理を行う作業においても医療情報のアナリストは情報を集めるだけの”データコレクター“にならないよう、 分析家としての専門の仕事に専念できる仕組みが整えられていることも大変重要なことです。
一方で日本では、現場において徐々に情報システムの導入が進んでいるのにも関わらず、そのシステムの全体的な統一性、情報の共有・活用がうまく機能していない状況に感じます。 要因としては、情報管理体制が整っていないこと、医療に対する評価基準が明確に定まっていないこと、情報を管理するシステムとデータベースの機能が活用可能な形を作り出すまでに至っていないこと、 それらを扱うことのできる人材の不足、などの問題点があります。 日本の医療が持つ問題点とは対象的にアメリカの整った医療情報の管理体制や技術などには、参考になる部分が多くあります。医療情報を大きく支えるシステムが構築され、 そしてそのシステムが医療現場を支える仕組みが確立されている所が日本とアメリカの医療の違いなのだと感じました。 また、患者に対する良い医療とは、ただ治療をして疾患や怪我が良くなればいいということではなく、行った医療行為が適切なものであったか、患者にとって満足のいくものであったかということになります。 これがoutcome oriented(outcome based)な考え方なのだということでした。そのことを調査し、何が問題なのか・どう改善していけばよいのかを考える体制こそが、より良い医療を築くことができるのだと思いました。
研修日程は非常に濃い内容でしたが、病院や医療施設での研修だけでなく、ホームステイ先のホストマザー,ファザーが医師のお宅で家庭と仕事のことをいろいろディスカッションできたことや、 街を観光したりみんなでご飯を食べに行ったりとシアトルでの滞在を十分に楽しむことができました。優しいホストファミリーの方々と出逢えたこと、 そして医療の現場に立っている方ということもあってアメリカの医療に関してのお話を聞くことができたり、 日本にはいない “family physician(家族医)”をしているホストマザーに自宅でも患者の診療情報を閲覧することができる診療録システムを見せて頂いたり、 ホームステイ先での体験も大変勉強になりました。
アメリカの医療における医療情報の位置付けや進歩した技術、確立された医療情報システムなど、刺激を受けたものはたくさんありました。医療制度の違いや様々な環境など日本との異なる特性がある中で、 良い部分をこれからの日本の医療においても取り入れることができたら、大いに活躍が期待できる医療情報システムや仕組みはたくさんあると思います。 今回の研修は私にとって非常に素晴らしい経験となり、とても大きなものになりました。実際に、アメリカの医療の現状を知ることができたからこそ日本の医療の問題点に様々な視点から着目でき、 そして改めて医療情報の重要性・医療情報を扱う人材が担う役割の大切さを実感しています。今回の研修で学んだことを参考に、これからも自分の勉強や研究に励んでいきたいと思います。
St.Joseph Medical Centerにて
最終日のfarewell party