東京医療保健大学 海外研修レポート

シアトル研修レポート
—退役軍人病院(Veterans Affair Hospital)—

根本 由香里

今回参加したシアトル研修では、アメリカの医療の中で日本の医療へ活用できる技術や、体制について学んできました。 アメリカには、国民皆保険制度が日本と同じようにないため、公的保険のメディケア(65歳以上の高齢者)・メディケイド(低所得者層)、 それ以外の人達は民間の保険に加入します(下図参照)。日本では、いつでも、好きな病院を受診できますが、アメリカでは自分の加入している保険により、 受診できる病院も限られてしまいます。日本の国民皆保険制度の導入を検討していますが、導入には至っていません。 しかし、退院後の受け皿となる体制がきちんと整えられているため、在宅ケアやナーシングホームと言ったケアにスムーズに移行できる点がとても関心を抱きました。

今回は研修10・11日目の、退役軍人病院(退役した軍人を対象とした病院)の見学で、特に印象に残ったテレヘルスについて紹介したいと思います。

アメリカ国民の医療保健制度

アメリカ国民の医療保険制度の図


見学内容

BCMAシステム
バーコードを使った薬の投薬チェックシステム(BCMA)

1日目


ドライビングシミュレーション
運転シュミレーションができる機器

2日目

テレヘルスで安心な在宅医療を

病院まで通院する時間や手間は、患者さんにとって負担に感じられます。 その時間を有効に使うことができ、負担を減らせる助けとしてテレヘルスが挙げられます。 毎日患者をモニターでき、常にデータが自動的に記録され管理できるシステムは患者さんにとっても、 臨床側にとっても利点が多いと感じました。

患者さんの疾患に合わせて、VAの国レベルで疾患別に計測項目・質問の項目があらかじめ決められているため、 患者さんは指示に従ってボタンを押すか、血圧を測るなどを手順に従って入力してゆきます。高齢者を主に対象としているので、 デザインも操作も簡素化され、病院で簡単な講習を受ければ使えるため、とても使いやすいとの事でした。 また、毎日のモニタリングにより医療者に診てもらえている安心感や、満足感が得られ、不安を取り除いてくれる役割を果たしていました。

テレヘルスの図

テレヘルスの機器
テレヘルスの機器
テレヘルス利用者にどういった変化が見られたかを調査した結果
(VHA 2004年調べ)
救急の診察に訪れた人40%減少
病院の入院63%減少
看護師の実際の在宅訪問64%減少


患者さんのメリット

VAの結果を見ると、救急を利用しなくても、テレケアがあることで不必要な診察を減らすことができ、 本当に必要な患者さんに救急を利用できるのだと感じました。患者さんも気軽に相談ができるため、 救急や外来へ来る前の予防にも繋がります。

他にも、患者さん自身がQOLの向上を実感するなど、目に見えた成果が得られていることから、 テレケアで十分に診察と同じ効果が得られ、診察の補助ツールとして使えるメリットがあります。

慢性疾患の場合、定期的に診察を受ける患者が多いですが、テレヘルスにより毎日の変化を送信し、 看護師がモニターしているので患者さんも安心を得られるので、自己管理が苦手な人にも向いていると感じました。

臨床のメリット

訪問看護の場合、移動に時間を取られてしまいますが、テレケアの場合は移動時間や訪問回数の削減を実現でき、 限られた資源を効率よく使うことができます。また、慢性疾患の場合、症状の悪化により救急や入院になるときがありますが、 導入により92%削減されました。また、継続的にケアをモニターすることにより、退院後の再入院も低くなるのではないかと思いました。

日本に導入し活用していくためには

テレケアは電話回線でデータを送信していたのですが、ワイヤレスになれば、 診療所や病院同士で患者さんの情報を共有できるだろうと感じました。通信速度も上がり、動画のやり取りも増えれば、 正確な診断に繋がると思います。

また、病床数の削減により、テレヘルスの必要性は増加すると考えられます。ネットワーク化が都道府県全体に進めば、 保健医療の支援、生涯教育、医療従事者への教育にも応用が可能になるかもしれません。

  テレケアはケアの継続性が可能なため、予防医療の一つとして活用でき、患者教育としても活用していけるはずです。 患者さんにとっても、通院の負担の軽減や、毎日のデータ管理をしてもらえるため、安心を得られると思います。 個人個人にカスタマイズできるプログラムも内容を充実させることで、いつでもかかりつけ医に見てもらえるような 役割も果たせるのではないだろうかと感じました。

研修に参加して

今回の研修では、見学以外に、ホームティやシアトルの町並みを観光できて、楽しい思い出となりました。ホームスティでは1泊2日と短い時間ながら、 ホストファミリーと貴重な時間を過ごすことができました。

米国の医療情報が10年以上進んでいることは聞いていましたが、実際見てみるとあらためて、医療、情報、ケアと様々な面でシステムがきちんと作られていると感じました。 VAでも10年前にはすでに電子化が導入され、インフォームドコンセントもペーパーレスなのには驚きました。VAほどの大きなネットワークの中でシステムを活用してゆくためには、 電子カルテシステムが標準化され統一化が重要だと思いました。このような役立つ技術を日本向けに、どのようにしたら使いやすく、患者さんと医療者のためになるか考え、 今後作れるように勉強してゆきたいと思います。

研修に参加したメンバー
研修に参加したみんな
シアトルの夜景
シアトルの夜景

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