Evergreen Hospital Medical Center
—テレホントリアージを中心とした総合的地域医療
サービス—
入江 香那
着眼点
- 総合的な医療サービスの提供による医療費削減の取り組み
→救急トリアージだけでなく、医師の紹介やフォローアップなど様々なサービスを提供。
→患者側、医療側の双方にメリット。
- どのナースがトリアージをしても同じ結果に
→システムにより一貫した質の保証が可能。
→その時に、もっとも最適な対応を(診断ではなく症状ベースのプロトコル)。
- コンピュータがオンラインである
→在宅勤務が可能。
→繁忙時、フレキシブルな対応が可能。
- 充実したナースの教育体制により信頼あるサービスとして定着
→システムも大切だが、ユーザと直接対話するナースの質も大切。
→臨床で働くことは不可能だが、知識は豊富な看護師にはトリアージナースは最適。
- 更にシステムを良くするための、アウトカムの測定・活用
→常に改善をめざすためにデータを活用。
→データのフィードバックを行うことで、今後システムを広げる鍵にもなる。
総合的な医療サービスの提供による医療費削減の取り組み
Evergreen Hospital Medical Center
- エバーグリーン病院の付属のコールセンター
- 1992年〜テレホントリアージサービス(ヘルスライン)を開始。
Evergreen Healthlineの目的と使命
- 目的:地域の患者が健康的な選択ができるように質の高い情報を提供すること。
- 使命:
- 質の高い医療へのアクセスを24時間提供すること。
- 患者の教育、紹介、支援を通して健康を促進すること。
- 適切な医療資源の利用を促進すること。
→このセンターの重要なミッション。
→全コールの54%が臨床の電話(ナースの対応必要)。
→適切なケアを適切なときに受けることの支援。
→Best Practice:エビデンスに基づいた最善の実践。
→地域全体の医療コストを適正化できる。
- 既存サービスの価値をさらに向上させるためにアウトカムを測定すること。
- ニーズを見つけ、新しい資源の開発を支援すること。
→医療組織で提供していない資源をセンターで担う。また情報提供を行う。
ヘルスラインの概要
- ヘルスラインの3つの柱
- 健康に関する資源を提供する人
- レセプショニスト…電話がかかってきたときに1番初めにつながり、臨床か非臨床かを振り分けする人
- ナース…臨床対応を行う人
- 24時間365日、全て無料で行う。
- 資源の適切な利用のため。
- 救急の不要な利用を減らす。
- 救急を早く利用しなかったためにより多くの資源を使用することを減らす。
- 健康保険未加入者(4500〜5000万人)でも無料で利用できる。
- 救急を利用しない方向に持っていける…そういう意味で今後利用が増えれば良い。
- アメリカ医療制度の欠点をうまくカバーできる。
- クラスの登録
- 健康教室の開催情報を提供(心肺蘇生、妊婦さん向け、栄養、慢性疾患、ヨガ など)
- 健康相談
- 出産・授乳(ブレストフィーリング;ナースは4日間の専門教育を受ける)
- 出産→アメリカでは24時間退院が基本
- 初産は特に悩み・不安が多い→24時間いつでもOK
- 一般の相談より頻繁&相談時間も長い
- Disease Management(疾患管理)
- 対象:糖尿病、心不全、母子のケア(産前9ヶ月)→継続的にケアが必要な疾患
- 母子のケア
→主に保険会社から紹介
→ハイリスクをもった患者を早期からケア →未熟児などを避ける
→医療費削減&ママも安心
- 目的:慢性疾患を持ちながらも、家庭で健康に生活ができるように。
→再入院を防止→医療費削減につながる
- 手順:
- Evergreen病院のスタッフが入院患者のもとへ、アセスメント→1年間のケアプランを立てる
- トランジションと退院後(1〜2回)、ヘルスラインでフォローアップ
- 「教育」が重要
- 職場の病欠部門、保健室のような役割
- 職員が感染(インフルエンザなど)した場合→まずこのセンターに報告
→感染制御と予防策
どのナースがトリアージをしても同じ結果に
- トリアージの手順
トリアージの流れ
- まず受付(レセプショニスト)でトリアージ
非臨床→レベル1
臨床→レベル2
- レベル2…ナースが重症度をトリアージ、キューに入れ、一度電話を切る
- 生後3ヶ月の赤ちゃん→必ずレベル4orレベル5
- 911コール→必ずレベル
- キューに入っている重症度の高い順(レベル5,4,3)に電話をかけ直す
- ルールアウト…重症度の高いほうから聞いていく
- 400〜500のガイドライン(プロトコル)に従いながら症状ベースでトリアージ
ナースがトリアージしている様子
- ガイドラインに沿った一貫したトリアージ
- →誰が行っても同じ結果に!
- 現在の症状ベースでトリアージを行う→診断を行うのではない
LVM systems社ホームページより
- 主訴「熱」と入力
- 「熱」に関するガイドラインが表示→近いものを選択
- 当てはまる症状のチェックボックスにチェック
- アドバイスが表示→「すぐにEDに行きなさい」、「薬を飲みなさい」等
→行ったアドバイス全てにチェック
- 患者がアドバイスを拒否した場合
- 例:「EDに行くべき」というアドバイスを拒否した
- 患者に命の危険があると伝えたうえで、「アドバイスに拒否」のチェックボックスにチェック(→何かあったときにナースを守るため)
- その後の選択は患者次第だが、重態だと伝えることが役割
- 医師につなげる役目も担う。
- 名前、住所、電話番号を確認
→過去に利用した人は、カルテが作られている。
→既往歴など参照できる。
- トリアージの質の保証→システムがあって初めて成り立つ
- システム:LVM systems社製「Telehealth Triage」
コンピュータがオンラインである
- 在宅勤務が可能
- ヘルスラインのナース数:38人→うち、25%が在宅(9人)
- 在宅は誰にも頼ることができないため、センターで要経験2年
- 遠隔勤務のメリット
- 働く側:通勤時間がなく効率的
- 雇う側:センターが忙しいときはヘルプとして多く働いてもらえる(同意書に書かれている)
充実したナースの教育体制により信頼あるサービスとして定着
- 様々な年代から様々な病態のTEL
- それに対応できるシステムであるが、幅広い知識が必要
→ガイドラインで対応しきれない部分は知識でカバーする
- トリアージナースの採用条件
- 最低2年以上(できれば5年)の臨床経験者
- 最低35words/分のタイピングスキル
- 採用フロー
- 採用第1段階:電話面接
電話をつかった仕事 →受け答えで、応対の印象を見る
- 採用第2段階:面接
- 面接官3人(ナース経験者)→偏らない評価をするため
- スコアシートでの評価→客観的な評価が可能
- 質問例:2歳の子供が夜中に39度の発熱。下痢、嘔吐あり。
悪い例…たぶん食中毒じゃないか?
良い例…発熱はいつから? どのくらい続いているか? 何か薬は飲んだか? 便の色は?
→与えられた情報から思考して質問、情報を引き出せるか
→トリアージで大切な「傾聴」能力があるかをみる
- トリアージナースの教育体制
- 新人トレーニング期間:2ヶ月(6.5時間/日)
- 1週目:病院概要、コンピュータ→非臨床部分の教育
- 2週目:受付でレセプショニストとして働く
- 3週目:レベル1の部分
- 4週目:モジュールの復習、トリアージ訓練開始
- 5週目:シナリオ(よくかかってくるTOP10)で模擬練習
- 6週目:先輩のトリアージ聴いて、タイピングのみ行う
- 7週目:プリセプタで実際のコールでトレーニング(テープで録音し、復習)
- 8週目:1人立ち
- 継続教育
- スキルズラボ(月1回、1回1時間×4トピック)
- 心臓疾患の知識、コミュニケーション力など(救急のドクターなどが講師)
- SV(Super Visor)によるコールモニタリング
- ランダムに行い、生産性の測定・分析
- 結果はフィードバック(肯定的な面も伝える)
更にシステムを良くするための、アウトカムの測定•活用
- 報告書 月1回作成
- 対応時間(トリアージ平均:9分,その他平均:3分)
- 電話が切れてしまった件数
- 郵便番号別人数
- このサービスを知ったリソース別件数(コミュニティ、電話帳、TV、Web、 パンフレットなど)
- 疾患別件数
- 各サービスの提供件数(トリアージ、クラス登録、健康相談など)など
→患者の要望が多いものは新たなサービスとして提供
- 新たなガイドライン作成
- 広報の戦略を練る などにアウトカムを活用。
- 2008年のデータ
- 年間合計:177,086件
- 月平均:14,757件
→コミュニティ人口(25万人)…かなり使用されているシステムであることが分かる!
- 長期的な視野で救急医療を見つめなおす
→短期的に見るとEDの収入が減るが、全体的・長期的に見ることが大切
→適切なときに、適切な場所で、適切なケアを提供