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海外のIT化の現状との比較からさまざまな問題点が見えてきた

—&mdash私は本学のシアトル研修に参加し,その際に訪問看護センターを見学したのですが,アメリカでは地域ごとに訪問看護センターが設置されており, 急性期 に入院して回復期 になったら自宅に帰ってもらい訪問看護のケアに切り替わる,ということがしっかり行われていると感じました. 日本でもそのような「機能分化」が進んでいくのでしょうか.

坂本

アメリカも日本も同じですが,医療の大きな柱は,「予防」,「急性期」,「回復期」それから「在宅」です.それぞれの段階で必要な医療・看護があるわけですが,日本の病院はアクセスフリー, つまり誰でも受診できるので,重症な患者さんも軽症な患者さんも大きな病院にやってきてしまう.高度な医療機能を備えた大病院では初診料を高く設定するなどアクセスの制限をはかっていますが, 長い待ち時間や"3分間診療"といった状況はなかなか改善されていません.私は,それぞれの段階で,本当に必要な患者さんが病院に来るというようなしくみが出来ればいいと思います. 必要ない患者さんはなぜ病院に行くのかといえば,患者さんはどうしていいのか分からないのと,不安だからだと思います.その人々すべてを病院に来てもらうのはお互いによくありません.

いまの日本の問題点は,必ず訪問して,あるいは病院に来てもらってケアをしなければならないというところが多い点です.これにはとても人手がかかります. これから高齢化は加速していくとますます診る側は足りなくなる.それではどうすればいいかというと,安心できるシステムが必要だと思います.大丈夫だと思えれば,できる限り自分で頑張りますが, どのような状態かがわからなければ,不安です.そこでITを利用したケア,テレヘルスケア の発展が望まれます.どのようにがんばってもらうといっても患者さんへのサポートは必要なのです. テレヘルスケアとは,たとえば一例ですが,看護師がテレビ電話で患者さんの顔を見ながらデータ通信したりできるシステムです.これならわざわざ病院に行かなくても電話で話せば済む.けれども日本では, 医療費の支払い方法が出来高払い制で,病院では,必ず訪問して直接診なければ診療点数がつかない(報酬が得られない)しくみが多いです.ここが変わらなければ,軽症から重症までの患者さんを早く一挙に診ることは不可能です. 場合によっては,トリアージすることも必要になるでしょう.すべての人に満足のいくケアをするのはたしかに最高のケアであるけれども,人手がかかり,不可能に近いものがあります.

エバーグリーンホスピタルメディカルセンターのテレホントリアージ 退役軍人病院のテレヘルスシステム
シアトルのEvergreen Hospital Madical Centerのテレホントリアージセンター(左)とVAのテレヘルスシステム(右)

そのためにはITを活用して一度に多くの人の情報を入手し,緊急に訪問の必要性があるかなどを判断していくことが求められます.国も言っていますが,安心と安全な医療のあり方が問われています.

解説

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