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情報共有ツールとしてのクリティカルパス

——病院と病院をつなぐため,また医療者同士がお互いの仕事を理解しあうため,クリティカルパスは非常に有用な情報伝達ツールといえますね.患者さんに見せることもあるのですか?

坂本

もちろんあります.多くの病院では,絵図を用いて治療の経過をよりわかりやすく示した患者さん用のパスを作成しています.「お医者様におまかせします」と昔はよく言ったものですが, インフォームド・コンセント(説明と同意)の考え方が普及するに伴い,最近では自分にどんな治療がされてどういった経過をたどってよくなっていくのか知りたいと思う患者さんは着実に増えています. そのように説明を求められたとき,クリティカルパスはとても便利です.たとえば,パスを一緒に見ながら,「手術後何日であなたはここまで動けるようになります, またその後何日でこれくらい歩けるようになりますよ」などと説明することで,患者さんと医療者が共に治療の目標(ゴール)を共有できるわけです.

乳房切除術のクリティカルパスの一例
乳房切除術のクリティカルパスの例
(MEDIS DCクリティカルパスライブラリーより http://epath.medis.jp/)

患者さんへの情報伝達はなかなか難しいものです

——医療者同士だけでなく,患者さんと医療者をつなぐためにもクリティカルパスが活用できるのですね.視覚的にもわかりやすいツールで患者さんに情報をとってもらうというのは大切だと思いました.

坂本

そうですね.でも患者さんに情報をとってもらうということはなかなか難しいものです.たとえば,患者さんの転倒・転落に関する研究もしているのですが,患者さんは皆,"自分は絶対転ばない"と思っているのです. 転倒を防ぐには,「入院したらこういう時に転ぶんですよ」というのを教えてあげればいいわけですが,それを患者さんが自分に関係するリスクとして納得しないと,その情報は伝わったことにはなりません.

そこで,転倒予防のためのビデオ作りをしました.「こういうところで転んでいますよ」と,他人が転んでいる場所を見せてあげるのです.「人の振り見てわが振りなおせ」といいますが,他人の転倒を見て, 自分も転ぶかもしれないと思っていただいて,注意してくれればちょっとした成功です.それでも,10人中おそらく8人の患者さんは,「そんなことよりも今自分がどんな病気なの?」「明日どんな検査するの?」と考えているようです. 明日は検査で裸になるというのであれば,「転ぶから1人でシャワーを浴びてはいけませんよ.浴びるときは看護師に声をかけてくださいね」と言われていても,きれいな体にしなければと思い,お風呂に入って転ぶ患者さんもたくさんいます. どうすれば「シャワーを浴びるときに看護師を呼んでください」という意味をわかってもらえるのか.たとえば,「一人でシャワーを浴びようとした患者10人のうち何人が転倒しました」という情報をお風呂の入り口に貼っておくなど, なにかしら患者さんに強く訴えかける工夫が必要です.多くの病院はまだそこまでできていません.危険に関する情報発信はしているが,相手(患者さん)がどのように捉えているかという評価と,それを捉えたことによって患者さんの行動がどう変化するかという分析まだ不十分です. そこまでしないと,有効な転倒防止策は見えてこないと思います.これからの研究課題ですね.((2)へ続く)

インタビューの様子1 インタビューの様子2

解説

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