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情報共有ツールとしてのクリティカルパス

坂本

今後,高齢化に伴い入院から在宅へとのシフトが進められようとしていくなかでは,院内にとどまらず,地域の病院と病院間, あるいは病院と介護施設間で情報をやりとりする機会も増えるでしょう.こうした地域連携においては,クリティカルパスが大いに役立つと考えられます. 最近では,疾患別の地域連携クリティカルパスが作られ,一部疾患については診療報酬でも評価されるようになっています.

坂本教授

——クリティカルパス上の情報はひとつの病院内だけでなく,地域で共有することができるのでしょうか.

坂本

誰がみても標準的な治療の計画や実施状況がわかる.これがクリティカルパスの最大の特徴です.医療機関の機能分化が進むなかでは, 地域の医療機関同士が互いに連携しあって患者さんの治療にあたることが求められます.たとえばある患者さんが骨折してA病院に入院したとします. 手術はA病院で行いましたが,歩く練習は,リハビリテーション専門のB病院で行うということもありえます.A病院とB病院は機能が違いますが, 患者さんの治癒に向けて一貫した見通しが必要です.そこで有用となるのがクリティカルパスです.これからは,その病院だけで通用するというだけでなく, 地域ぐるみでクリティカルパス上の情報を共有していくことが重要だと思います.

もちろん何が何でもクリティカルパスの指示通りにするというのではなく,患者さんの個別性に合わせて見直しを行うことも大切です. 治療の過程で生じた計画との差異をバリアンスといい,そのデータを収集・分析することによって,継続的なクリティカルパスの改善にもつながっています.

——クリティカルパスによって,患者さんに関するいろいろな情報が可視化されるようになったのですね.看護師がパスの作成にかかわることもあるのでしょうか.

坂本

そもそもクリティカルパスは,90年代後半,アメリカで医療の効率化を目的に導入されるようになりました.アメリカの公的医療では,DRG/PPSといって, 疾患ごとに医療費が包括払いされるシステムがあります.つまりある疾患で治療したらいくら,というのがあらかじめ決められていますから,経営上, 病院ではいかに手(コスト)をかけないで,つまり,合併症などをおこさないで退院させるか,が重要になります.少し違いますが,日本でも包括支払い制度であるDPCが一部で導入されるということで, 私たちは1997年にクリティカルパス研究会を立ち上げました.現在の日本医療マネジメント学会の前身です.

坂本教授

それまでは,どのような治療をしたら,あるいはどのように看護したらどのように治っていくのか,見えないままただひたすらに仕事をしていたと思います."患者さんが良くなったか", "患者さんが満足しているか","職員が満足しているか","どれだけの時間をかけたか",この4つのアウトカムが見えていなかったのです.一生懸命やっても成果がわからないから評価もされない, これでは皆行き詰まってしまいます.クリティカルパスの利点のひとつは,このアウトカムが見えるという点です.自分のした仕事だけでなく他のスタッフの仕事の経過や結果も見えます. パス使用によって皆で同じ方向に向かって患者さんが少しでもよくなるように成果を出そうという動きに医療スタッフがなっていくことが最近わかってきました. 要するに,患者さんの回復という共通のゴールに向かって,いろいろな人たちをつなぐ道具がパスだともいえるのです.

NTT東日本関東病院でクリティカルパスを導入したかった理由は,看護師はいつも医師に指示を聞いっている状況がありました.これはすごく効率が悪い.だからもっと医師と看護師や医療スタッフがお互いに, この疾患で入院したらこういうふうにしようというのが見えて,患者さんにも見える,このようなことをぜひやりたいと思いました.もちろん看護師もパスの作成にかかわります.医師やその他のスタッフと一緒になって議論し, 先ほど話したバリアンスがあれば,分析し,より精度の高いパスを作るために日々研究を重ねていますし,そうした研究をまとめて学会発表する看護師もたくさんいます.同院の平均在院日数の短縮化も進んでいますし, クリティカルパスの効果はさまざまところで出ていると思います.

解説

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