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医療安全というゴールに向かってスタッフをまとめるプロフェッショナル,医療安全管理者

——専任の医療安全管理者になっている看護師も多いと聞きますが,看護とはまた違って大変な仕事ではないですか.

坂本教授
坂本

医療安全管理者が配置されるようになって10年あまり経ち,いまでこそ,その仕事内容も確立してきましたが,初期のころは本当に大変だったと思います.いままで病棟で看護師をしていた人が突然任命されて, 医療事故という大きな課題にあたるわけですからとまどいもあったでしょう.ましてや看護部だけでなく,院内のすべての部門や職種の人々に対して,事故防止のための活動を啓発していかねばならないのですから, 非常にストレスフルな仕事といえます.なかにはコミュニケーション能力が高くまさに適職という人もいますが,その病院で初めて医療安全管理者になった看護師,いわゆる初代リスクマネージャーと呼ばれる人たちの多くが大変な苦労をしました.

理由のひとつとして,専任医療安全管理者という職務が非常に孤独であるという点があります.新しい役割であるため前任者もなく,ほとんどの病院では(相当大きい病院を除けば)専任というと院内に一人しか置けないですから, 相談できる人がなかなかいません.通常,医療安全管理室は院長直属の部門として独立しており,院長命令のもとに医療安全管理者は院内の職員に指示を出す権限があるわけですが, たとえば医師にインシデントレポートを出してくださいと呼びかけても聞いてもらえなかったり,看護部以外のよその部署に行って,事故の内容を詳しく調査したりするのはとても難しいことです.そもそも情報収集するためのインターネット環境もない. 専用のメールアドレスを持っていないなど,専任医療安全管理者に必要な道具の整備も整っていないということが研究からわかりました.

坂本教授

こうした状況を改善する方法のひとつとして,他の病院の医療安全管理者たちと情報共有ができないだろうかと考えました.医療安全管理者同士の横のつながりを作るのです.病院は違っても同じような事故は起こるものですから, 有効な対策があれば病院を越えて共有できるということは大きなメリットです.われわれはメーリングリストをつくって医療安全管理者同士の情報のやりとりを支援する試みを行いました.これがすぐに事故防止に結びつくとはいいませんが, ちょっとした悩みを相談し合う場になったり,事故対策や業務改善のヒントを得る場になることで,医療安全管理者たちの心の支えとなると思いました.その結果,横のつながりを支援するためのインフラ整備が必要ということがわかりました. 厚生労働省管轄下の地域ブロック単位(北海道・東北・関東・関西・東海・中国・四国・九州)の講習会や,県の看護協会主催の研修等を通じて,最近ではだいぶ医療安全管理者同士のネットワークも構築されつつあります.医療安全管理者も3代目, 4代目となり,前任者も増え,どんな仕事かということが自分にも周囲にも認知されるようになって,以前より仕事がしやすくなったのではないでしょうか.2007年にはその業務指針を示した報告書が厚生労働省の検討グループによってまとめられています. (厚生労働省医療安全対策会議医療安全管理者の質の向上に関する検討作業部会「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」平成19年3月)

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