topページへ
前へ 1 2 3 4 次へ

——医療安全管理者のように,病院で数少ない役割・立場の場合,病院を越えた横のつながりが支えになるということがわかりました. 苦労されている看護師の方々も多いようですが,組織横断的に活動し安全に関する情報を受信発信する,いわばつなぎ役といえそうですね.

坂本

そうですね.看護部にとどまらず院内全体で何が起きているかを知るよい機会にはなるでしょうね.

ただ,たとえばインシデントレポートの分析という仕事は,看護師のスキルでできる仕事とは少し違うのではないかと私は思っています. もちろんできる人もいるし実際,現状は多くの医療安全管理者の看護師が行っていると思いますが,たとえば本学の医療情報学科のような 情報処理を専門に学んだ者のサポートがあれば,より迅速かつ効率的に分析ができるでしょう.彼らはある傾向からエビデンス(科学的根拠)を見出したり, そこから医療を改善する方向性を打ち出していくことにおいて,医療にかかわる情報分析のプロフェッショナルになるために大学で鍛えられています.

また以前は医療機器が壊れると看護師が修理していたこともありましたが,それは無理であり,やはり専門の臨床工学技士が24時間サポートできる勤務体制が求められます.

舛添要一・前厚生労働大臣が「安心と希望の医療確保ビジョン 」のなかでも提言していたように,いろんな職種が医療現場に入ってきて連携すれば, 医療は効率性だけでなく質という面でもよりよいものになっていくと思います.スキルミックス(多職種恊働)の考え方です.

現場で働く人たちの医療安全への意識を高め,必要な対策があれば納得して実施してもらうようにする——医療安全という共通のゴールに向かって院内スタッフの意識をいかにしてひとつにするか, そこは医療安全管理者の腕の見せ所ではないでしょうか.

看護という技術だけでなく,人間としてどのように問題解決をしていくかという訓練が必要

——たしかに,医療安全は医療を提供するすべての者にとって基本となる重要な考え方ですね.先ほど新人看護師の離職について触れられましたが,離職防止のためにもこれからますます新人および学生にも 医療安全の教育が重要になってくると思います.基礎教育と現場のギャップを埋めることが大きな課題になっているようですが・・・

坂本

日本看護協会の調査(2004年)によれば,自分も医療事故を起こすのではないかと思っている看護師は全体の約2割で,現場に入った途端にこの仕事は自分に不向きと思い始めるのが約半分といわれています. 不安であったり,医療事故を起こすのではないかと思わせるような環境下で,現場に入った途端に医療事故が怖いからとやめてしまうような,教育と職業の乖離はあってはなりません.夢を持って看護師になり 「さあ,やるぞ」と思ってもらえるような教育をやらなければ,よい教育とはいえません.(日本興亜損害保険株式会社「SERCH MEDICAL」vol.7のインタビュー記事「看護教育の視点から見た医療安全の進むべき方向」より)

坂本教授

基礎教育は学生に「夢を与える教育」であるべきです.東京医療保健大学の学生には2年生の前半ぐらいから医療安全を教えています.過去に発生した医療事故のビデオを見せると,多くの学生は怖いといいますが, 同時にそれに打ち勝つように,と教えます.怖いと思う,不安になるのは当たり前ですが,看護師とはその怖さに打ち勝って,人を助けて行くプロフェッショナルであることを教えています.

一方で,プロになるためのベースには教養というものが必要です.法学や哲学など一見看護には関係なさそうな学問ですが,これらが将来看護を実践していくなかで役に立つことが多くあります. 教養として学んださまざまな知識を結集して問題解決していくというのは,一般大学の学士教育では当たり前のことです.看護教育にもこのような教養科目を導入し,看護という技術だけを身につけることを目標とするのではなく, その前に人間としてどのように問題解決をしていくかという訓練が必要だと思っています.

——具体的にどのような訓練が必要なのでしょうか.

坂本

本学には「機能看護学」という分野がありますが,その授業は,グループでの議論を中心に進められます.最初は,自分で一生懸命考えて出した答えと,他の人の答えは違うことがあるということを知ることから始まります. 他人と違うから私が悪い,間違っていると思うのではなく,そういう考え方もある,あるいは他の人の考え方に協調できるところもある,という見方ができるようになる.そのうち一つではなく,いくつかの答えを考える能力が身につけば, 他人と違うからといってあせる必要もないし,他人の考え方に賛成ではなくても理解できるということはあるでしょう.

こういう訓練をしていれば,将来,患者さんやあるいは職場の仲間から厳しいことを言われたとしても立ち直れるような,精神的に強さがだんだん身についていくと思うのです.若い皆さんには, 精神的に強い"へこたれない看護師"に育って多くの患者さんに貢献してほしいと願っています.看護という学問は奥が深いと思います.

解説

前へ 1 2 3 4 次へ
topページへ