——まず、先生はどういった研究をされているのですか?
研究は,大きくわけて2つ柱があります.1つは医療安全に関することで,RFIDなどの通信技術を用いて 医療現場や手術の支援技術の開発です.もう1つは,計測工学や生体工学の観点から, 人間のからだの筋力・バランス機能・歩行機能を計測する機器を開発しています. そして開発した機器を実際に高齢者の転倒予防や,子供の発育の評価に発展させています.
——先生は本当に幅広く研究をされていますが,先生の研究スタイルを教えてください.
とにかく役に立つことですね.そのために研究をしています.僕の研究は,ニーズオリエンテッドで, こんな問題点があるから,そのために役に立つことを支援するというのが原点です.
——学生の時の研究テーマは,細胞工学に関することと伺っていますが,医療について勉強し始めたのは卒業後ですか?
僕が高齢者に対する研究を始めたのは,1997年からです.その当時は某省庁からお金をもらって,テレビ電話によるテレヘルスの開発をしていました. フィールド実験を行っていた際に,あるお年寄りの自宅に設置したテレビ電話に朝6時におはようコールをかけるのですが,その方は朝5時から着替えて, ばっちり化粧をしてテレビ電話の前に,今か今かと座っているんです.ところがある朝,少し具合が悪くて起きれなかったんですね.その日は, 「電話はいいけれども、テレビはやめてほしい」と言うんです.その時,誰かに会う前にはお化粧をしなければ会えないという,女性の高齢者のお話を聞いて 老年の心理学は重要だと思いました.ちょうどその時,新聞で高齢者施設の入所者のお年寄りにお化粧をする活動が載っていて, その代表者に電話をしたのが本格的の高齢者研究に入ったきっかけです.それから,高齢者の転倒予防について研究を始めました.
——直接電話をかけようと思ったのもすごいですね.
とても運命的な出会いでしたね.その電話がなかったら僕の高齢者研究はなかったかもしれません.
——高齢者の転倒予防研究についてのお話をお聞かせください。
ちょうどその頃,介護保険制度が始まるときで,転倒をどのように予防するかということが議論されていました. 高齢者にとっては転倒による骨折予防が重要であるため,そのための研究事業に参加することになりました. その研究事業を進めていく中で,下肢筋力を定量的に調べる重要性に気付き,機器の開発も行いました. そして多くのお年寄りが足元に問題があることが分かりました.転倒予防には足部や足爪のケアが欠かせないということも分かり, 高齢者の足についての計測や評価を始めました.現在は,開発した機器を使って高齢者の転倒リスクの評価指標の開発や, いろいろな地域と連携してフィールドテストを行っています.