「まずは原点を知ってもらいたい」そう仰って、まず以下の3点について力説して下さった。
さらに、フグの肝の美味しさに魅せられ、中毒者が絶えないこと、そして、野口教授本人も有毒な肝を食べたことがあるなどと、 驚きのエピソードを話された。フグ肝の美味しさを、安心安全に味わうことはできないのか・・・ それが無毒フグの研究のきっかけだった。
当時、TTX(テトロドトキシン:以下フグ毒(青酸カリの500〜1000倍の毒性))はフグにしかないフグの専売特許の毒とされ、 フグのそれぞれの個体が必ず持っているものと考えられていた。そのなかで、カリフォルニアイモリやツムギハゼにもフグ毒があることが分かり、 このハゼにいたっては畑にまき、ねずみ殺しに使用していた。そのハゼの毒はなんと、フグ毒で、 長らく魚類フグの専売特許であるフグ毒が魚類のハゼにも知られ、これまでの信じられていた神話が覆ってしまった。 その後、フグ毒は、他の生物にも分布されていることが分かり、次から次へとフグ毒保有生物が広がった。
続いて、1979年12月に静岡県清水市で取れた食用のボウシュウボラ(ホラ貝の一種)を食べて中毒者が出た。 肝膵臓(肝臓と膵臓が一緒になった器官中腸腺)の部分を食べて、まもなく呼吸が麻痺し、 重態に陥ったという新聞記事があったという。野口教授は、現場に赴き、入手した食べ残しから中毒原因物質を調べたところ、 それが、驚いたことにフグ毒だったのである。さらに、ホラ貝の消化管から発見されたヒトデにもフグ毒が検出され、 ホラ貝の毒化原因が、餌であるヒトデだった。
また、水産庁の依頼をうけて、福井県坂尻湾産食用巻貝のバイ貝にもフグ毒が検出され、調べるうちに、餌箱にいれた、 クサフグの内臓中のフグ毒が疑われた。ここで、毒化原因が食物であることを実証するためにモデル実験をして、バイ貝の毒化が、 食べ物から来ることを実証した。
長い間、フグだけが持つと考えられていたフグ毒がどこから来るのか・・・という議論が熱心にされており、 それはフグ自身がつくるという説が強く信じられていた。しかし、ホラ貝やバイ貝の中毒原因解明から、 フグも餌から来る可能性があるという考えに至った。 そこで、フグの消化管を調べると、フグ毒をもつ小型巻貝や、甲殻類やヒトデが見つかることから、 フグも海底にいる餌生物からフグ毒がくるのではないかとの仮説を立てた。 「毒のない餌しか与えなければ、フグは毒化しないのでは」と。ここからフグの無毒化への実験がスタートした。