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——無毒化のフグ養殖により、何世代も無毒化を続けると、フグだけが持つ毒への抵抗力はどうなるのでしょうか。 また、フグ自身に影響はないのですか?

野口

フグはもともと選択して毒のある餌を摂取していて、フグ毒を必要としている。 いわゆるフグ自身は、敵に会って早く逃げられる体の格好をしていないから、敵に会うと全身を膨らませて、 フグ毒を体の表面から出して相手に逃げてもらう。また、フグ毒を摂取することで病気に対して免疫力をつけたり、 ストレスを解消したり、産卵した卵を守ったりして、要するに生体防御・・・自分の体や卵を守るために摂取しているから、 フグがこの世に出現して、種族を維持できるのはフグ毒あってこそだと思う。 ハリセンボンは毒を持たない代わりに針という武器をもって生存競争を生き抜いている。 無毒化は人間のためにやっていることで、フグにとっては生態防御物質がないわけで生きていけないから一大事です。 でも、水槽の中で餌をもらって飼育されているから問題がないが、自然に帰れば、フグにとって先祖から受け継いでいたフグ毒を蓄積する防御方法を取ってしまうので、 フグはいい迷惑かもしれない。

野口

今まで、何代か養殖を続けてきたが、現段階では抵抗力に変化はない。 例えば、人間の男性の寿命は70〜80歳で、その間にフグのフグ毒に対する抵抗力の変化があれば見る事ができるけど、 もし、その時間が長くかかれば、人間の一世代では見ることができない。フグのフグ毒に対する抵抗力という形質は、 遺伝子が関与すると考えられる。フグがおそらく長い間かけて獲得したこの形質のおかげで、餌を通してフグ毒を蓄積してきたが、 天然フグがいなくなって養殖の無毒フグだけが残ったら、このフグ特有の形質による毒の蓄積段階が長期間なくなることになり、 この形質が消滅するおそれがあるかもしれない。そうすると、あなたの言う通りに、何千年か何万年後に、フグはフグ特有の抵抗力を持つ形質が働かなくなる可能性もあり、 フグは種族を維持できなくなるかもしれない。

——無毒フグの出現は、天然フグには無関係のことなので、その生態系には影響は生じない?

野口

天然フグは、乱獲により資源が枯渇しているが、天然フグは絶滅するとは思えない。したがって、天然フグの生態系は崩れないと思う。 市場に入ってくるものは少ないけれども、海は広いから。 天然フグの資源が枯渇してフグ養殖が始まったが、始めはフグの養殖はうまくいかなかった。 毒がないため成長は悪いし、病気には弱い。その上お互い咬み合いもやる。なんとかして養殖を健全化してほしいといわれ、 フグはフグ毒をもつのが原点だといってそれに戻ってみた。 餌に、フグ毒を入れてフグを養殖したところ、成長も良くなるし、かみ合いも少なくなるし、生残率もよくなった。 フグ全体が毒化したら、養殖の意味がなくなるが、可食部の筋肉は毒化しなかった。


——伝統食品フグ肝を復活させるに当たって、無毒化したフグ肝を食べることへの抵抗などはありましたか?

野口

万が一、フグ肝が有毒であったらということには、自分で長らく多くのフグ肝の毒性試験をしてきたので、100%無毒であることに自信があった。 伝統食品フグ肝を安心安全に復活させなければと思い、環境要因が異なる7つの県で採取したフグがすべて無毒ならば、 まず、私の掲げる仮説が実証されると思った。すべてが無毒で自信をつけた。つぎに、試験した陸上で養殖したフグも2001〜2008年にわたり安全確認したことで、 更に自信をつけた。食べることに不安はなかった。

——これからフグ肝を発展させ、広めてゆくために何か予定されていることはありますか?

野口玉雄教授
野口

試食会をたくさん開催していきたい。しかし、食品衛生法第6条の規制があるが、フグ肝は伝統食品であるし、むしろ、フグはこの規制でも例外として食べることのできる食材です。 元々、皆さんの常識からすると、フグは毒を持っているわけですが、そういう物でも人の健康を損なう恐れがないならば、食べてもよいといっている。 しかし、厚生労働大臣が食べてよいと認めたものだけです。人の健康を損なう恐れがないことは、フグ毒定量の公定法によって無毒であるとの結論で判断される。 私達は何十年もかけてこの公定法の結果を得て、試食会を行っています。もちろん試食会にあたって、関係者による毒味をして、安心・安全を確保しています。 1つの水槽の中で、飼育されている1群2500匹は全く同じ生育環境で、同じ餌を食しています。


例えば、1つの水槽で飼育されている母集団2500匹のフグの毒性につき、そのうち数%をランダムサンプリング(無作為抽出)して統計処理すれば、同じ環境下での母集団2500匹の毒性が論議できる。 これまでには母集団2500匹の毒性を2.5%から35%以上を無作為抽出して毒性をみて、無毒を確認してきました。統計学的にはあまり意味がないかもしれないが、消費者の安心・安全を確保するために、 牛のBSEの検査では全頭を調べていることもあり、2008年には水槽に飼育した1000匹すべてについて毒性を調べ、無毒を確認しました。

大貫和恵助手
大貫

ポイントは無毒化です。
一般消費者に、フグ肝を食べてもらい、良さを知ってもらう事と
それを大いに宣伝する広報活動が大事になります。


野口

これからやろうとしている実験では、海水でなく水に塩を入れて人工海水を使って飼育してみようと考えています。この先、フグ肝が規制解除され、フグ肝が食べられることができても、 フグは怖いといって食わず嫌いになってしまっては困るので、安心安全を強調して、理解してもらうためにも毒性のチェックを完全にして、試食会をして広めてゆきたいと思います。それには100%安心・安全でなければならないと思います。

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